カイソウ (Drimia maritima, )
カイソウ(Drimia maritima)はキジカクシ科ツルボ亜科の多年生球根植物で、地中海西部の沿岸域に由来します。大きな球根は地表にのぞくことが多く、夏の終わりには、葉が出る前に高い花茎を伸ばします。
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Taken Sep 24, 2020 by Paco Paco (cc-by-sa)
Taken Sep 4, 2021 by laia (cc-by-sa)
Taken Sep 27, 2021 by Jean-Marc Wiederrecht (cc-by-sa)
Taken Sep 18, 2021 by Dieter Albrecht (cc-by-sa)
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世界の分布
狭義のDrimia maritimaの原産域は地中海西部で、イベリア半島、バレアレス諸島、フランス南部、イタリア、モロッコ、アルジェリアに及びます。外見だけでは区別しにくい広義の種群は、地中海全域や近東まで含められることがありますが、その一部は実際には近縁の別種です。
基本情報
カイソウ(Drimia maritima (L.) Stearn, 1978)は、キジカクシ科ツルボ亜科のDrimia属に属する多年生球根植物です。古い分類ではヒヤシンス科またはユリ科に置かれていました。英語ではSea squillとも呼ばれます。 1 8
最初の記載は1753年で、カール・フォン・リンネがScilla maritima L.と名づけました。現在の組合せはずっと後の1978年に、植物学者William Thomas Stearnによって発表されました。 1 2
医学や薬理学の文献では、ラテン語の異名と並んでsquillという呼称が使われます。Urginea maritima (L.) Bakerは、現在も生薬学の研究で見られる名前です。フランス語のscille officinaleやurginée maritimeも、この植物を指します。 7 4
見分け方
地表に大きくのぞく球根は、花のない時期にも識別の手掛かりになります。通年地中に隠れる地中海の多くの球根植物と異なり、直径は最大20 cm、重さは最大1 kgに達し、海岸の岩がちな斜面で群生することもあります。 2 4
春の球根からは、長さが1 m近くにもなる大きな披針形の葉が十枚ほど伸びます。革質の葉は球根の直径を大きく上回りますが、夏の前に黄変して乾きます。これは毎年繰り返す夏の休眠の始まりで、病気を意味しません。 2
晩夏には葉のないまま、高さ1.5〜2 mの花茎が直立します。密な総状花序に、直径約1.5 cmの白い小花が並び、六枚の花被片それぞれに濃い中央脈があります。果実は長さ約1.2 cmの乾いた蒴果で、平たい種子が風に運ばれます。 2
分類のポイント
古い植物学・薬学文献を読む際には、次の異名が目印になります。
- Scilla maritima L.:1753年に発表された基礎異名
- Urginea maritima (L.) Baker:生薬学で多用される異名
- Charybdis maritima (L.) Speta:フランスの自然遺産目録で使われる名
- Squilla maritima (L.) Steinh.:同じ植物の異名
- Ornithogalum maritimum (L.) Lam.:同じ植物の異名
フランスの国立自然遺産目録INPNはCharybdis maritimaを基準名とする一方、KewはDrimia maritimaを採用しています。いずれも同じ植物を指しますが、採用する分類体系によって属名が異なるため、両方の名称がカタログに並びます。 1 5
地中海の近縁な一群には、外見だけでは見分けにくく、主に染色体数で区別される植物が含まれます。特定の株を正確に確認する際には、全体の姿よりも学名の方が確かな手掛かりになります。 1 8
生息地と分布
狭義のカイソウの原産域は地中海西部で、イベリア半島からバレアレス諸島、フランス南部、イタリア、モロッコ、アルジェリアまで及びます。海岸近くのガリーグと呼ばれる低木植生、岩の多い草地、砂地に育ちますが、内陸のやや日陰になる場所にも耐えます。 1 2
より広い近縁個体群は、狭義の分布域を越え、地中海の残りの地域や西アジアの一部にも及びます。また20世紀には、ネズミ防除に向けた毒成分の多い系統を育成する目的で、アメリカ、インド、パキスタンに農作物として導入されました。 2 3
生活環と繁殖
湿潤な冬と春に葉を育て、夏の乾燥前に葉を落とすという生活環は、地中海性気候に対応しています。葉のなくなった球根は、地上部が見えない完全な休眠状態で夏を越します。 2
新しい葉が出る前の夏の終わりから秋に、葉を伴わない開花が起こります。地中海の多くの植物とは花の時期がずれ、ミツバチや一部のハチ類による虫媒に加え、風による受粉も行われます。 9 2
親球の周りに生じる子球を分けると、種まきよりも早い開花が期待できます。実生では初めての花まで数年を要することがよくあります。 4
利用と注意点
古代エジプトのエーベルス・パピルスにもカイソウの記載があり、薬用の歴史は数千年前にさかのぼります。浮腫への伝統的な利用は、強心配糖体の利尿作用に基づいています。 6
これらの成分であるブファジエノリド類は、植物体重量の最大3 %を占めることがあります。全器官に存在するシリロシドはシラレンAより作用が強く、赤い球根に多く含まれます。白い球根では、作用がより穏やかなシラレンAが主体です。一部の精製成分には医療上の利用が残りますが、厳格な管理を要し、自己治療には使いません。 4 2
伝統的な殺鼠剤としての利用もあります。多くの動物が避けたり吐き出したりする苦い植物を、ネズミは食べてシリロシド中毒を起こします。ワルファリン抵抗性のネズミ個体群が現れた際には、この選択性が農業分野で再び注目されました。 2 4
生の球根から出る樹液は、用途にかかわらず強い刺激性があり、皮膚の炎症や水疱の原因になります。子どもやペットが誤って食べた場合は、直ちに医師または獣医師の助言を求めます。 4
品種・類似種・近縁種
一般的な観賞植物と異なり、カイソウには安定した園芸品種がありません。実用上は二つの型が区別されます。白い球根はシラレンAが多く、ヨーロッパの薬局方で中心となる型です。赤い球根はシリロシドがより多く、英語のred squillという呼び名の由来になっています。 2 4
購入や採集に先立ち、受容学名と記載された分布域を確認します。染色体を調べなければ混同しやすい地中海の近縁種群と、狭義のDrimia maritimaを区別することも大切です。 1 8
高く伸びる花茎は、切り花としてフラワーアレンジメントにも利用されます。これは薬用や毒としての用途とは別の、観賞上の使い方です。 2
主な参考文献
- Plants of the World Online / Kew, Drimia maritima (L.) Stearn
- Royal Botanic Gardens Kew「Drimia maritima(maritime squill)」元の種情報ページ(Internet Archiveの2013年10月29日保存版)
- IUCN Red List, Lansdown 2018, Drimia maritimaの評価
- Plants For A Future, Urginea maritima
- INPN / MNHN–OFB「Charybdis maritima (L.) Speta」CD_NOM 161772、元の種情報ページ(Internet Archiveの2024年5月3日保存版)
- Stannard 1974, 古代・中世の薬物学におけるカイソウ
- Tela Botanica、eFlore BDTFX「Drimia maritima (L.) Stearn」学名レコード23097(受容名Squilla maritimaの異名)
- GBIF, Drimia maritima 種情報
- Dafni & Dukas 1986, Urginea maritimaの虫媒と風媒
よくある質問
カイソウとUrginea maritimaは同じ植物ですか?
はい。Urginea maritimaはDrimia maritimaの古い異名で、医学・薬理学の文献では今も広く用いられます。現在の受容名はDrimia maritimaです。
カイソウは猫や犬に有毒ですか?
はい。球根、葉、樹液にはシリロシドなどの強心性ブファジエノリドが含まれます。食べると消化器症状や心臓への障害が起こる可能性があります。
葉がないのに花が咲くのはなぜですか?
地中海性気候に合わせた生活環をもつためです。葉は冬から春に育ち、夏前に枯れます。葉が消えた後の夏の終わりに、花茎だけが伸びます。
カイソウの球根はネズミの毒に使われてきましたか?
はい。多くの動物が本能的に避ける苦い球根をネズミは食べ、シリロシドで中毒を起こします。このため伝統的な殺鼠剤として使われ、現在も研究されています。
球根に素手で触っても大丈夫ですか?
素手での取り扱いは勧められません。生の球根の樹液には強い刺激があり、皮膚の炎症や水疱を起こすことがあります。分球や植え直しの際は手袋を着けます。
現在も薬として使われていますか?
強心配糖体の作用を利用し、浮腫や軽い心不全に伝統的に用いられてきました。現在は主に精製成分へ置き換わり、厳密な医療管理の下で使われます。
白い球根と赤い球根はどう違いますか?
球根の色が白か赤紫かという違いに加え、主成分も異なります。白い型はシラレンAが多く、赤い型はシリロシドが多い傾向があります。
似ている植物
植物の毒性について不明な点がある場合は、植物学または獣医学の専門家にご相談ください。






