ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum, L. 1753)

ヒカゲノカズラ(Lycopodium clavatum L., 1753)はヒカゲノカズラ科の多年生胞子植物です。北半球の温帯や熱帯の高山に広く分布します。細い針状の葉をつけた茎が地をはい、立ち上がる胞子嚢穂から淡黄色の粉を放出します。この胞子粉は医薬や火薬を使う演出のために長く採集されてきました。

続きを読む
学名Lycopodium clavatum
属Lycopodium
目Lycopodiales

ヒカゲノカズラ, Common clubmoss と Stag's-horn clubmoss

基本情報
毒性
植物体はアルカロイドを含み、摂取すると有毒。胞子は無毒です。
管理の難易度
高い
葉の性質
常緑
寿命
多年草
原産国
フランスイギリスドイツポーランドアメリカ合衆国日本メキシコ
自生環境
酸性のヒース、泥炭地、やせた草地、明るい林縁。ケイ酸質で貧栄養、水はけのよい土に生育します。
季節性
収穫期
夏
生育
休眠
休眠しない
生育速度
2/10
成熟までの期間
地下の前葉体を経て、胞子をつけるまで6〜15年かかります。
増やし方
胞子
気候と水やり
温度
耐寒性
湿度
70–95 %
水やり
ごく少量
少なめ
普通
多め
非常に多い
耐乾性
いいえ
用土
土壌pH
土壌タイプ
酸性土, 泥炭質土
塩類土壌
耐えられない
光と置き場所
日照条件

葉に直射日光が当たらない、明るい場所に置きます。

明るい場所から明るい半日陰を好みます。
屋外
林縁
形態
高さ5–15 cm株張り50–100 cm
葉
緑
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 葉 1
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 葉 2
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 葉 3
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 葉 4
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 葉 5
花
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 花 1
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 花 2
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 花 3
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 花 4
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 花 5
果実
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 果実 1
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 果実 2
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 果実 3
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 果実 4
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 果実 5
樹形・草姿
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 1
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 2
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 3
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 4
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 5
樹皮
緑茶
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹皮 1
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹皮 2
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹皮 3
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹皮 4
ヒカゲノカズラ (Lycopodium clavatum):原産地と利用法 — 樹皮 5

世界の分布

ヨーロッパ、北アメリカ、アジアの北半球温帯に加え、中南米、アフリカ、アジアの熱帯山地にも分布します。フランスでは湿地の排水やヒースの植生遷移によって大きく減少し、複数の地域で保護されています。

  • 原産7
  • フランス
  • イギリス
  • ドイツ
  • ポーランド
  • アメリカ合衆国
  • 日本
  • メキシコ

六角形:植物が見られる地域。緑の点:原産分布域。1

基本情報

ヒカゲノカズラ(Lycopodium clavatum L., 1753)はヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属の多年生胞子植物です。広義の シダ植物 に含まれ、茎、葉、根と維管束をもちながら、種子ではなく胞子で繁殖します。フランス語ではpied-de-loupやherbe aux massuesとも呼ばれます。 1 7

属名Lycopodiumはギリシャ語のlykos(オオカミ)とpodos(足)を組み合わせたものです。毛のある直立した枝を古い植物学者がオオカミの足に見立て、フランス語名pied-de-loupにもその比喩が残りました。英名 Common clubmoss や Stag's-horn clubmoss にmossとあっても、維管束をもたず真の茎や根を欠くコケ植物とは異なります。 5 7

見分け方

地面をはう茎は 長さ1 m に達し、盛んに枝分かれします。一定の間隔で二又に分岐する根を出すため、地表に沿って生育範囲を広げていきます。 3 2

小葉は 長さ3〜5 mm で茎の周囲に密ならせん状につき、先端には細い白毛があります。夏には栄養茎のマットから 高さ5〜15 cm の胞子をつける枝が立ち上がります。共通の柄の上に 長さ2〜3 cm の黄緑色の胞子嚢穂が2〜3本つき、その本数が近縁のヒカゲノカズラ科植物との重要な区別になります。 3 7

胞子嚢穂の各胞子葉は基部に腎臓形の胞子嚢をもち、成熟すると 直径約30 µm の胞子からなる 淡黄色の微粉 を放出します。粉は強い撥水性があり、水面に浮いても濡れにくく、かすかに樹脂のような香りがあります。 6

分類のポイント

学名 Lycopodium clavatum L. は 1753年 に発表され、Plants of the World Onlineで受容されています。ヒカゲノカズラ属には北半球の温帯や熱帯山地に分布する数十種があります。本種には地理的な変種が区別され、メキシコと中南米の変種 aristatum、日本と中国北東部の変種 asiaticum などが挙げられます。 1 4

古くはシダ類とともに「シダ植物」と総称されましたが、本種は別系統の 小葉植物 に属します。その系統は数億年前にほかの維管束植物から分かれました。この古い系統をめぐる分類の歴史は、植物文献に本種の多数の歴史的異名が記録されている背景でもあります。 7 1

生息地と分布

ヨーロッパから北アメリカ、アジアに及ぶ北半球の温帯が分布域です。さらに中南米、アフリカ、アジアの熱帯山地にも分布し、温帯だけに限られる植物ではありません。 1 4

フランスのINPNは国土の広い範囲で本種を記録しています。ただし平地では、酸性のヒース や 泥炭地 の排水、農地への転換によって著しく減少しました。このためフランスの複数の地域や県で 法的保護 の対象です。 8 5

典型的な生育地は酸性のヒース、泥炭地、やせた放牧地、明るい林縁です。ケイ酸質で貧栄養、水はけのよい土 に生え、pHは4〜6 が目安になります。温帯の自生域では −20 °C の冬に耐え、USDA耐寒性ゾーン 5〜8 に相当します。一方、耕作地や定期的に火入れされる場所では、ほかの酸性地のヒカゲノカズラ科植物と同様、急速に姿を消します。 3

生活環と繁殖

胞子から始まる繁殖は、花を咲かせる植物とは大きく異なります。地中で発芽した胞子は、葉緑素をもたない地下の 前葉体 となり、共生する菌根菌に栄養を全面的に依存します。この配偶体は受精まで 6〜15年、地表から見えない状態で過ごします。 7

受精後の前葉体から、初めて葉緑素をもつ匍匐茎が生まれます。その茎が胞子嚢穂をつけるまでにも数年かかります。資料では胞子の播種から最初に胞子をつける群落まで、6〜15年 という長い期間が示されています。 7 3

地表での栄養繁殖は、それより速く進みます。すでに発根した匍匐茎の断片が離れれば、胞子からの生活環をすべて繰り返さずに新しい場所へ定着できます。 3

利用と注意点

胞子粉には歴史的に多くの用途がありました。水を強くはじくため薬局で 丸薬の被覆 に使われ、保存中の付着を防ぎました。また空気中に舞うと急速に燃えるため、昔の写真撮影の 閃光粉 になり、一部の手品にもその用途が残っています。 6 7

植物体そのものには リコポジン と クラバチン というアルカロイドがあります。摂取すると有毒で、多くの哺乳類で運動神経を麻痺させるおそれがあります。一方、胞子 自体には毒性がなく、この性質が長年の医薬品への利用を可能にしました。 3

伝統的な薬用としては、特にフィンランドで利尿目的に使われてきました。胞子をすりつぶして希釈したものはホメオパシーにも用いられます。これは利用の歴史であり、ここで効果を示すものではありません。 7 6

品種・類似種・近縁種

ヒカゲノカズラには公認された園芸品種がありません。自然に生育する植物で、観賞目的の選抜はされておらず、自然の生育地以外で意図的に育てるのも非常に困難です。 2

似た環境に生えるヒカゲノカズラ科には、Diphasiastrum 属や Lycopodium annotinum などの類似種があります。見分ける際は 共通の柄につく胞子嚢穂の数 が重要で、本種では通常2〜3本です。針状の葉の先端に、目立つ白い毛がある点も併せて確認します。 4

林床をはう Selaginella kraussiana や本来のコケ植物も、遠くからは似て見えます。しかし 維管束を備えた真の葉 と 直立する胞子嚢穂 があれば、真の葉や茎を欠く狭義のコケ植物とは明確に区別できます。 7

主な参考文献

よくある質問

ヒカゲノカズラには毒がありますか?

植物体にはリコポジンとクラバチンというアルカロイドがあり、多くの哺乳類に対して摂取時の毒性があります。胞子自体は無毒で、長く医薬品の賦形剤に使われてきました。

胞子粉はなぜ昔の写真撮影に使われたのですか?

微細で油分の多い胞子は、空気中に濃く舞うと急速に燃えます。その性質が写真用の閃光粉に利用され、一部の手品でも使われています。

ヒカゲノカズラは庭で栽培できますか?

栽培は非常に難しい植物です。菌根菌と共生する地下の前葉体は受精まで10年以上かかる場合があり、普通の庭には少ない酸性で貧栄養の土も必要です。

ヒカゲノカズラはフランスで保護されていますか?

はい。ヒースや泥炭地の減少を受け、複数の地域や県で法的に保護されています。そうした地域での無許可の採集は禁止されています。

ほかのヒカゲノカズラ科植物との見分け方は?

共通の柄に通常2〜3本の胞子嚢穂がつくことと、針状の葉の先端に目立つ白い毛があることを合わせて確認します。

Lycopodiumという名前の由来は何ですか?

ギリシャ語のlykos(オオカミ)とpodos(足)に由来します。昔の植物学者が毛のある直立した枝をオオカミの足に見立てたことにちなみ、フランス語名pied-de-loupも同じ意味です。

胞子粉は薬局で何に使われていましたか?

微細で水をはじく性質を利用し、保存中に丸薬同士がくっつかないよう表面を覆っていました。合成の賦形剤が普及する以前の一般的な用途です。

似ている植物

植物の毒性について不明な点がある場合は、植物学または獣医学の専門家にご相談ください。