マムシアルム (Arum maculatum, L. 1753)

マムシアルム(Arum maculatum)は、ヨーロッパからコーカサス西部の温帯の林床や生け垣に自生するサトイモ科の塊茎性多年草です。晩冬から黒斑を帯びることの多い矢じり形の大きな葉を伸ばし、発熱と腐肉に似た臭いによって送粉昆虫を誘う花序をつけます。

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学名Arum maculatum
属Arum
目Alismatales

マムシアルム, Cuckoo-pint と Lords-and-ladies

基本情報
毒性
有毒 : 人(子どもを含む), 猫, 犬, 馬 と 動物
管理の難易度
低い
葉の性質
落葉
寿命
多年草
原産国
フランスイギリスドイツイタリアトルコジョージア
自生環境
落葉広葉樹林の林床、生け垣、湿り気のある林縁。石灰質土壌に多い
季節性
開花期
春
収穫期
秋
生育
休眠
夏季休眠
生育速度
6/10
成熟までの期間
実生から開花までは数年かかる
増やし方
株分け, 種子
気候と水やり
温度
耐寒性
耐風性
弱い。背が低く林床の樹冠に守られる
湿度
55–85 %
水やり
ごく少量
少なめ
普通
多め
非常に多い
耐乾性
いいえ
用土
土壌pH
土壌タイプ
腐植質に富む, 石灰質土, 林地の土
塩類土壌
耐えられない
光と置き場所
日照条件

間接光の当たる場所か、日陰になる部屋に置きます。

半日陰から明るい日陰。木漏れ日にも耐える
屋外
林床風ガーデン, 生け垣列, シェードガーデン
形態
高さ20–50 cm株張り10–30 cm
葉
緑
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 葉 1
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 葉 2
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 葉 3
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 葉 4
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 葉 5
花
緑紫黄
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 花 1
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 花 2
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 花 3
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 花 4
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 花 5
果実
オレンジ赤
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 果実 1
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 果実 2
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 果実 3
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 果実 4
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 果実 5
樹形・草姿
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 1
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 2
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 3
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 4
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹形・草姿 5
樹皮
緑紫
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹皮 1
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹皮 2
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹皮 3
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹皮 4
マムシアルム(Arum maculatum):原産地と利用法 — 樹皮 5

世界の分布

POWO/WCVPでは、ヨーロッパのスウェーデン南部から北アフリカ、トルコ東部、コーカサス西部までを自生域としています。フランス本土にも自生し、多くの森林や生け垣のある地域で普通に見られます。

  • 原産6
  • 移入1
  • フランス
  • 英国
  • ドイツ
  • イタリア
  • トルコ
  • ジョージア
  • 米国

六角形:植物が見られる地域。緑の点:原産分布域。1

基本情報

マムシアルム (Arum maculatum L., 1753)は、サトイモ科アルム属の多年草で、ヨーロッパ温帯の林床に自生します。2月ごろから地上に現れる矢じり形の葉は 10〜20 cm になり、しばしば黒い斑点を帯びます。夏の赤い果実にはシュウ酸カルシウム結晶が含まれ、人、猫、犬に対して全草が有毒です。 1 2

種小名 maculatum は葉の暗色の斑点を指しますが、その出方には集団差があり、無斑の株もあります。フランス語名 pied-de-veau は肉厚な矢じり形の葉を子牛のひづめになぞらえた呼び名です。英語の cuckoo-pint と lords-and-ladies は、それぞれ春のカッコウの帰来や、肉穂花序を包む仏炎苞の形を連想させる民俗的な名で、温帯のサトイモ科に見られる命名の例です。 6

見分け方

地下の塊茎で越年する 地中植物 で、林床の多くの植物に先駆けて2〜3月に芽を出します。光沢のある矢じり形の葉は 10〜20 cm で、葉柄は葉身より長くなることがあります。不規則な黒い斑点があれば識別の助けになりますが、自然には全面が緑色の型もあり、斑点がないだけでは本種を除外できません。 4 3

4〜5月にはサトイモ科特有の花序が現れます。緑色から紫がかった仏炎苞が中央の肉穂花序を包み、その軸は株により暗紫色または淡黄色になります。仏炎苞を含めた草丈は 20〜45 cm です。 2 4

初夏には葉がすべて枯れ、葉のない茎の先に 赤橙色の液果 が密集した直立する穂だけが残ります。果実の穂は林縁で9月ごろまで見られます。周囲の林床植物に紛れる春よりも、葉を失ったこの時期のほうが目立つことがあります。 2 4

分類のポイント

約30種の地中海性・温帯性植物を含むアルム属に分類されます。葉の斑点や色の地域差に基づき、歴史的には少なくとも次の5つの名が使われてきました。

  • Arum vulgare Lam.:歴史的な異名。
  • Arum vernale Salisb.:歴史的な異名。
  • Arum pyrenaeum Dufour:歴史的な異名。
  • Arum maculatum f. immaculatum (Mutel) Topa:歴史的な異名。
  • Arisarum maculatum (L.) Raf.:歴史的な異名。

斑点のない immaculatum 型の存在は、黒斑の有無だけで種を決められないことを示します。分類上の基準になるのは、POWO/WCVPが受容する Arum maculatum L. という名です。 1 9

生息地と分布

ヨーロッパ温帯のほぼ全域に広がり、スウェーデン南部から北アフリカ、トルコ東部、コーカサス西部に及ぶ自生域を持ちます。フランス本土では落葉広葉樹林の林床、農地を囲む生け垣、湿り気のある林縁に普通に見られ、石灰質の土壌を好みます。 1 8

北米など自生域外では、主に日陰の庭を彩る観賞植物として栽培されます。果実から種子がこぼれて増えやすく、小さな日陰の庭では広がりを抑えにくくなることがあります。 4

生活環と受粉

花が熱と臭いを使う仕組みは、温帯の植物では珍しいものです。肉穂花序は周囲より数度高くなり、腐肉に似た臭いで小さなハエを誘います。この 花の発熱現象 に伴う誘引により、虫は雄花の上にある毛の輪の下で一晩閉じ込められ、花粉をまとってから外へ出ます。 7 6

受粉後には赤橙色の果実の穂ができ、葉が消えたあとも夏の間に熟していきます。キジなど一部の鳥は、ほとんどの哺乳類には有毒な果実を食べても明らかな害を示さず、種子を運びます。 6 4

デンプンを蓄える地下の塊茎は、古い株では深さ 30 cm を超える位置に達することがあります。開花を終えた夏に自然に分かれます。実生での繁殖も可能ですが遅く、新鮮な種子は15 °Cで1〜6か月かけて発芽し、初開花まで数年を要することがよくあります。 3

利用と注意点

塊茎のデンプンは、かつて布やエリザベス朝のひだ襟を固める洗濯のりに使われました。1440年には、サイオン修道院の修道女が、ほかの由来のデンプンを使えないため祭服ののりに利用していました。ただし、生の塊茎には刺激性の結晶が残り、長時間の乾燥や加熱を行わない調製には危険が伴いました。 6 3

全草に不溶性のシュウ酸カルシウム結晶があり、特に果実に多く含まれます。人、猫、犬、馬が食べると、直ちに口内の灼熱感、過剰な唾液、飲み込みにくさが生じます。えぐみと痛みのため大量には食べにくく、中毒の報告自体は多いものの、重症例は比較的まれです。 5 4

採集時に問題になるのは ラムソン (Allium ursinum)との取り違えです。両者の若葉は同じ季節、同じ林床に現れ、中毒報告でよく挙げられます。葉をもむとラムソンにははっきりしたニンニク臭がありますが、マムシアルムにはありません。 4

類似種・近縁種

春の林床ではラムソンのほか、若い芽の背丈が似る ドイツスズラン (Convallaria majalis)や、同じく塊茎を持つ有毒な イヌサフラン (Colchicum autumnale)とも混同されます。イヌサフランの葉はより遅れて現れ、黒斑がありません。これら3種は近い環境に生え、いずれも誤食の危険があります。 4

同属で特に似るのは モエギアルム (Arum italicum)です。葉には黒斑よりも白い葉脈が目立ち、開花はやや遅れます。両種は同じ性質の有毒成分を持ち、昆虫を一時的に閉じ込めて受粉する仕組みも共通します。 9 6

主な参考文献

よくある質問

マムシアルムには毒がありますか?

はい。葉、生の塊茎、特に赤い果実には不溶性シュウ酸カルシウム結晶があります。人、猫、犬、馬が食べると直ちに口内の灼熱感、過剰な唾液、嚥下困難を起こします。

ラムソンと間違えることはありますか?

林床では若葉が似ていますが、マムシアルムの葉をもんでもニンニク臭はしません。この取り違えは採集者の偶発的中毒のよくある原因の一つです。

花が嫌な臭いを出すのはなぜですか?

肉穂花序が外気より数度高くなり、腐肉に似た臭いで小さなハエを誘います。虫は毛の輪の下に一晩閉じ込められ、花粉をまとって放たれ、別の花の受粉に関わります。

赤い果実は食べられますか?

食べられません。多くの哺乳類には有毒です。キジなど一部の鳥は明らかな害なく食べて種子を運びますが、人やペットが食べられることを意味しません。

夏に葉が消えるのはなぜですか?

塊茎に十分な養分が蓄えられると夏の休眠に入ります。葉は黄変して消え、裸の茎に残る果実の穂だけが秋まで見えます。

葉には必ず斑点がありますか?

いいえ。黒斑の出方には集団差があり、自然には無斑のforma immaculatumもあります。斑点がないことだけでは本種を除外できません。

フランスのどのような場所に育ちますか?

フランス本土の多くの森林や生け垣のある地域に自生します。落葉広葉樹林の林床、生け垣、湿り気のある林縁に多く、石灰質土壌によく育ちます。

似ている植物

植物の毒性について不明な点がある場合は、植物学または獣医学の専門家にご相談ください。