ホースラディッシュ (Armoracia rusticana, )
ホースラディッシュ(Armoracia rusticana)は、南東ヨーロッパと西アジア原産のアブラナ科の多年草です。白く肉厚な直根は、切ったりすりおろしたりすると酵素の働きで刺激性の含硫揮発性油が生じ、辛くなります。何世紀にもわたり根や若い葉のために栽培され、ほぼすべての大陸で帰化しています。栽培系統の多くは発芽可能な種子が少なく、主に根の断片で増えます。
続きを読むホースラディッシュ, Horseradish と Meerrettich






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世界の分布
原産地は南東ヨーロッパと西アジアで、ウクライナ南部からヨーロッパ・ロシア南部に及びます。何世紀にもわたり根のために栽培され、西ヨーロッパ、北アメリカ、東アジアなどへ広く帰化しました。原産植物としての分布と、栽培や庭からの逸出による分布を分けて考える必要があります。
基本情報
ホースラディッシュ (Armoracia rusticana G.Gaertn., B.Mey. & Scherb., 1800)は、アブラナ科 Armoracia 属の多年草です。南東ヨーロッパと西アジアを原産とし、白く肉厚な直根は長さ 60 cm、直径約 5 cm に達します。すりおろしたばかりの根から生じる強い辛味が、栽培する主な理由となっています。 4 1
呼び名に根の強い辛味が表れています。フランス語の raifort は古語の raiz forz、すなわち「強い根」を縮めたもので、ラテン語の radix と fortis を受け継いでいます。英語 horseradish の horse も、文字どおりの馬というより、強さや粗さを表す意味で使われています。 6
見分け方
大きく波打つ光沢のある葉が、 ロゼット状 に集まります。縁には鋸歯があり、スイバやギシギシの葉に似て、長さ 50 cm超 になることがあります。成株の高さは通常 60 cm〜1.5 m、広がりは 60〜90 cm です。横に伸びる根の範囲は、地上で見える葉の広がりを大きく越えます。 6 5
春の終わりから夏に、直立した花序へ 4枚の花弁を持つ小さな白い花 が集まります。旺盛な葉に比べると花は控えめです。現代の栽培系統の多くは不稔、または稔性が低く、発芽可能な種子をほとんどつくりません。そのため主に根の断片で増え、花のない時期にも地下部が重要な特徴となります。 4 5
傷のない根には、特有の辛味はまだ現れていません。切る、おろすなどして組織が傷つくと、放出された酵素が空気に触れる過程で、無臭の含硫化合物を刺激性のある揮発性油へ変え、強い辛味が生じます。 4
分類のポイント
POWO/WCVPが受容する学名は Armoracia rusticana G.Gaertn., B.Mey. & Scherb.です。1753年の基礎異名 Cochlearia armoracia L.に基づき、1800年に発表されました。現在の分類に落ち着くまでに使われた学名には、次のものがあります。
- Cochlearia armoracia L.(関連学名)
- Nasturtium armoracia (L.) Fr.(関連学名)
- Rorippa armoracia (L.) Hitchc.(関連学名)
- Armoracia armoracia (L.) Cockerell ex Daniels(関連学名)
- Cochlearia rusticana Lam.(関連学名)
- Armoracia rustica Schur(関連学名)
アブラナ科にはキャベツ、カラシ、ダイコン、ナタネも含まれます。ホースラディッシュも、組織が傷つくと辛味を生むグルコシノレートを防御成分として持ちます。ただし独立した種であり、これらの野菜との商業的な交雑は目立ちません。 1 8
生息地と分布
原産地は 南東ヨーロッパと西アジア で、ウクライナ南部からヨーロッパ・ロシア南部に及びます。 8
根の利用を目的に何世紀にもわたって栽培され、原産地よりはるかに広い範囲へ帰化しました。西ヨーロッパ、ロシア、中国、日本、ニュージーランド、北アメリカに見られ、北アメリカではカナダからアメリカ南西部まで分布しています。 8
アメリカ中西部では19世紀半ばから商業生産が行われてきました。参照資料による年間生産量は約 11,000トン、約 2,400万ポンド で、主にイリノイ州で生産されています。 7
生活環と繁殖
花茎が立ち上がる春の終わりから夏にかけて、小さな白い花が咲きます。発芽可能な種子が少ないため、家庭でも商業生産でも 根の断片 を使った栄養繁殖が中心です。春に約 12〜15 cm の間隔で斜めに植えます。 7 4
根の成長は夏の終わりから秋の初めに盛んになり、涼しい時期にデンプンが蓄積して辛味も強まります。収穫は味がよくなる初霜の後、 秋から冬 に行います。土に残した根は、冬の間も収穫できます。 3 6
土に残った小さな根の断片からも容易に芽を出します。一度定着すると完全に取り除くことが難しく、生産者には利点でも、庭で広がりを抑えたい場合には管理上の負担となります。 4
利用と注意点
すりおろしたばかりの根を使う料理が、ホースラディッシュの主な用途です。鋭く刺激的な辛味のソースにして、肉、魚の燻製、ゆで卵に添えたり、ドレッシングに加えたりします。若い葉も、生のサラダや加熱野菜として食べられます。 4
猫、犬、人に対して 有毒とは分類されていません。ただし多量に摂取すると、含硫揮発性油が消化管や呼吸器の粘膜を刺激します。妊娠中・授乳中の方や、甲状腺、腎臓、胃に疾患のある方は、摂取量を控える配慮が必要です。 4
ユダヤ教の過越祭の食事では、苦菜 maror の一つとして使われます。これはエジプトでの奴隷生活の苦しみを記憶する象徴的な利用です。
品種・類似種・近縁種
栽培で知られる歴史的な系統には、滑らかな葉を持ち、現在の北アメリカの生産で主流となる Bohemian があります。古くからの 葉が縮れる系統 は Maliner Kren と呼ばれることが多く、病気に弱い面がありますが、風味のために栽培が続いています。また、 白斑入りの葉 を持つ観賞用の Variegata も流通します。 6
ワサビ(Eutrema japonicum)とは別種です。ともにアブラナ科で似た辛味の化学的仕組みを持ちますが、ワサビの栽培条件ははるかに厳しく、費用もかかります。日本国外でワサビとして売られる緑色のペーストには、真のワサビの生産量が足りないため、着色したホースラディッシュを用いるものが多くあります。 8
開花前の葉は、ゴボウ属(Arctium)やスイバ属(Rumex)に似ることがあります。これらの根は褐色で繊維質、味も淡い一方、ホースラディッシュの根は白く肉厚で、傷つけると強い辛味が生じます。葉だけに頼らず、地下部の色や質感も合わせて区別します。
主な参考文献
- Plants of the World Online / Kew, Armoracia rusticana G.Gaertn., B.Mey. & Scherb.
- Royal Horticultural Society, Armoracia rusticana (horseradish)
- Royal Horticultural Society, ホースラディッシュの育て方
- Plants For A Future, Armoracia rusticana
- Missouri Botanical Garden Plant Finder, Armoracia rusticana
- NC State Extension Gardener Plant Toolbox, Armoracia rusticana
- University of Missouri IPM, アメリカで親しまれるホースラディッシュの根
- USDA GRIN Taxonomy, Armoracia rusticana
よくある質問
ホースラディッシュはワサビと同じ植物ですか?
いいえ。ワサビの学名はEutrema japonicumで、同じアブラナ科でも別種です。辛味の化学的仕組みは似ていますが、ワサビの栽培条件ははるかに厳しく、費用もかかります。日本国外でワサビとして売られる緑色ペーストの多くは、ワサビの生産不足から着色したホースラディッシュを使っています。
猫や犬に対して毒性はありますか?
ホースラディッシュは、ペットにも人にも有毒とは分類されていません。ただし大量に摂取すると、含硫揮発性油によって消化管の粘膜が刺激されることがあります。
加熱すると辛味が弱くなるのはなぜですか?
辛味は、組織が傷ついた際に始まる酵素反応で生じます。熱でその酵素が働く前に壊れるため、加熱した根は辛味を速やかに失います。
葉も食べられますか?
はい。若い葉は生のサラダにするほか、野菜として加熱できます。根に比べて味は穏やかで、辛味も弱くなります。
庭で広がりすぎることはありますか?
あります。土に残ったわずかな根からも芽が出るため、定着すると取り除きにくくなります。大型容器で育てたり、根の広がる範囲を囲ったりすると、この危険を抑えられます。
どのように増やしますか?
春に根の断片を斜めに植えて増やします。栽培株は発芽可能な種子をあまりつくらないため、種まきより栄養繁殖の方が確実です。
フランス語名raifortにはどんな意味がありますか?
古フランス語のraifortは、raiz forzという「強い根」を意味する語が縮まったものです。収穫した根の力強さを表す呼び名です。
似ている植物
植物の毒性について不明な点がある場合は、植物学または獣医学の専門家にご相談ください。






