シュロ (Trachycarpus fortunei, )
シュロ(Trachycarpus fortunei)はヤシ科の樹木で、中国中部・南東部、日本南部、ミャンマー、インド北部を原産地とします。一本立ちの幹を覆う繊維と扇形の葉が特徴です。多くのヤシより寒さに強いことから、原産地を離れた温帯の庭でも広く栽培されるようになりました。
続きを読むシュロ, Chusan palm と Windmill palm






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世界の分布
中国中部・南東部、日本南部、ミャンマー北部、インド北部の、標高2400 mまでの山地に分布するとされます。中国と日本では古くから栽培されているため、本来の自生域の境界は不明瞭です。温帯で観賞用に広く植えられ、スイスのアルプス南部では帰化し、局地的に侵略的な植物となっています。
基本情報
シュロ (Trachycarpus fortunei (Hook.) H.Wendl., 1861)は、ヤシ科シュロ属の樹木です。英語では Chusan palm や Windmill palm とも呼ばれます。根が十分に張った成木は −15〜−20 °C の凍結に耐える一方、若木は−8 °C程度でも傷みます。このヤシとしては高い耐寒性により、イギリスやフランスの大西洋岸など、原産地を遠く離れた地域にも普及しました。 3 1
種小名fortuneiは、1850年ごろ中国浙江省の舟山島から種子を持ち帰ったイギリスの植物学者ロバート・フォーチュンにちなみます。ウィリアム・ジャクソン・フッカーが1860年にChamaerops fortuneiとして記載し、翌1861年にヘルマン・ヴェンドラントがTrachycarpus属へ移しました。ヨーロッパでは1856年にボルドー植物園へ導入され、その後、寒さへの強さを生かして温帯の庭へ広がりました。 2
見分け方
幹は 一本立ちで枝分かれせず 、好条件では高さ 12〜20 m に達します。温帯の庭では、数十年育てても多くは 8〜12 m 以下です。幹には褐色の繊維が厚く残り、麻を編んだように見えます。この姿が、フランス語で「麻のヤシ」と呼ばれる理由です。 3 4
長い葉柄には小さなとげが2列に並び、その先に長さ 140〜190 cm に達する扇形の葉を広げます。 雌雄異株 で、雄株には鮮黄色、雌株には緑がかった円錐花序をつけます。5〜6月に現れる花序はよく枝分かれし、長さ約 1 m になります。 4 3
受粉した雌株には、長さ約 1 cm の、小さな豆に似た腎臓形の果実が実ります。晩秋に十分熟すと 紫黒色 になり、扇形の緑の葉とは異なる色が見られます。 4
分類のポイント
POWO/WCVPが採用する学名はTrachycarpus fortunei (Hook.) H.Wendl.です。基礎異名のChamaerops fortunei Hook.は1860年に発表されました。Trachycarpus属の設立以前には、アジアの耐寒性のあるヤシの一部が、地中海地域のChamaerops属に含められていました。 2 1
主な異名には、Chamaerops excelsa hort.、Chamaerops fortunei Hook.、Trachycarpus caespitosus Becc.、Trachycarpus wagnerianus hort. ex Becc.があります。最後の名前は、現在この種に含められる園芸品種を、かつて別種として扱ったものです。
園芸流通で特によく目にする異名はwagnerianusです。長く独立した種として販売された後、Trachycarpus fortuneiの園芸品種群として扱われるようになりました。異名や商品名が混在する資料では、受容されている学名が種を確かめる手がかりになります。 1 5
生息地と分布
原産地として挙げられるのは、 中国 中部・南東部から 日本 南部の九州、 ミャンマー 北部、 インド 北部にかけてです。標高 2400 m までの山地にも分布します。ただし、中国と日本で長く栽培されてきたため、本来の自生域の正確な境界はわかりにくくなっています。 4 5
IUCNによるTrachycarpus fortuneiの評価は 低懸念(Least Concern) です。広い分布域と古くからの栽培があり、現時点では短期的な絶滅リスクが高い種とは評価されていません。 6
温帯では、イギリス、フランス、ベルギー、アメリカの大西洋岸・太平洋岸などで観賞用に広く植えられます。一方、スイスのアルプス南側、 ティチーノ州 では帰化し、2014年から侵略的外来種のリストに掲載されています。冬が暖かくなると、鳥が運んだ種子が凍害を免れて発芽し、在来の樹木と光や空間をめぐって競合します。落石を防ぐ森林の機能を局地的に弱める可能性も指摘されています。 8
生活環と繁殖
花が見られる時期は 5〜6月 です。雄株と雌株が分かれているため自家受精はできず、一本だけ植えた株では、毎年花が咲いても種子ができない場合があります。結実を考える際には、開花の有無と受粉の条件を分けて確認します。 4
種子は暖かい条件で 1〜3か月 ほどで発芽し、最初の年には切れ込みのない葉を3〜4枚出します。初期の 3年間 は生育が遅く、その後は年間 15〜30 cm ほど伸びるようになります。種子から高さ1 mほどの株になるまでには、約 5年 かかります。 4
繁殖方法はほぼ種まきに限られます。枝分かれしない一本の幹をもち、株元から子株を出さず、確実な挿し木方法もないためです。成長した株を切り分けて増やす植物とは、増殖の仕組みが異なります。
利用と注意点
中国と日本では、葉鞘から得られる粗く丈夫な繊維が、古くから縄や園芸用の袋などに利用されてきました。花序は野菜として食べられ、熟した果実も食用とされますが、果実はあまり好まれるものではありません。 4
ペットへの毒性について、ASPCAはTrachycarpus fortuneiを猫、犬、馬に 無毒 としています。この分類により、動物が出入りする庭で使う観賞用のヤシとして選択肢になります。 7
耐寒性の記録には、ブルガリアの プロヴディフ で観測された −27.5 °C があります。ただし、よく根づいた成木の通常の目安は−15〜−20 °Cで、葉は −12 °C 、若木は −8 °C 程度から傷みます。また南ヨーロッパでは、2001年以降、幹に坑道を掘るガの幼虫Paysandisia archonも問題になっています。 3
品種・類似種・近縁種
Wagnerianus は半矮性のグループで、より硬く短い小葉は 45 cm 未満、樹高は通常 5 m を超えません。コンパクトな姿によって、基本的なタイプより風に強い傾向があります。Trachycarpus wagnerianusとして長く流通しましたが、現在はT. fortuneiの園芸品種として扱われます。 1
よく比較されるのは、ヨーロッパ大陸唯一の自生ヤシであるChamaerops humilisです。こちらは低く茂り、複数の幹を出すことが多く、高さはおよそ 2 m で、シュロの12〜20 mとは差があります。葉柄のとげも明らかに鋭くなります。温帯で栽培されるPhoenix canariensisやSabal palmettoは、それぞれ羽状葉や中肋の目立つ掌状葉をもち、シュロの扇形の葉と区別できます。
主な参考文献
- Plants of the World Online / Kew, Trachycarpus fortunei (Hook.) H.Wendl.
- International Plant Names Index、Chamaerops fortunei Hook.(基礎異名)
- Royal Horticultural Society, Trachycarpus fortunei - Chusan palm
- NC State Extension Gardener Plant Toolbox, Trachycarpus fortunei
- GBIF, Trachycarpus fortunei (Hook.) H.Wendl.
- IUCN Red List、Trachycarpus fortuneiの評価(2024年)
- ASPCA、シュロの毒性
- Tonelotto & al., 2022, Iconic but Invasive, Environmental Management
よくある質問
シュロは猫や犬に有毒ですか?
ASPCAではTrachycarpus fortuneiは猫、犬、馬に無毒とされています。ペットが出入りする庭でも植栽に使えるヤシです。
シュロはどのくらいの寒さに耐えますか?
よく根づいた成木は通常−15〜−20 °Cに耐え、ブルガリアのプロヴディフでは−27.5 °Cの記録があります。ただし葉は−12 °Cから傷むことがあり、若木は−8 °C程度でも被害を受けます。
チャボトウジュロとの違いは何ですか?
シュロは一本の直立した幹を伸ばします。Chamaerops humilisは株立ちして低く茂り、幅は数mほど、高さは通常2 mを大きく超えません。葉柄のとげも、こちらの方が明瞭で鋭いのが特徴です。
Wagnerianusとはどのような品種ですか?
長さ45 cm未満の短く硬い小葉をもつ半矮性のグループで、高さが5 mを超えることはまれです。長くTrachycarpus wagnerianusとして販売されましたが、現在はTrachycarpus fortuneiの園芸品種として扱われます。
スイスで侵略的になるのはなぜですか?
ティチーノ州では冬が暖かくなり、庭から鳥が運んだ種子が凍害を免れて発芽します。自然環境に広がった株は在来の樹木と競合し、局地的には防護林の機能を弱める可能性が指摘されています。
学名Trachycarpus fortuneiの由来は何ですか?
fortuneiは、1850年ごろ中国の舟山島から種子を持ち帰ったイギリスの植物学者ロバート・フォーチュンにちなみます。1860年にChamaerops fortuneiとして記載され、1861年にTrachycarpus属へ移されました。
シュロの果実は食べられますか?
成熟した果実は食用とされますが、あまり好まれません。中国では、野菜として食べる花序の方が、この種の伝統的な食利用として知られています。
似ている植物
植物の毒性について不明な点がある場合は、植物学または獣医学の専門家にご相談ください。


